2025/12/01 10:16
スーツに黒い革靴。
かつて「ちゃんとしている大人」の足元は、それ一択に近い世界でした。
そこに、黒タートルネック・デニム・グレーのニューバランスで舞台に立った男がいます。
スティーブ・ジョブズ。
彼が愛用し、象徴的な存在となったのが、ニューバランスの「99X」ラインの一つ、992。
このモデルはニューバランス創業100周年を記念して登場し、「最高のアンバサダー」であるジョブズが講演などで繰り返し着用したことで、一気に存在感を高めました。
992はボリュームのあるフォルムから“ダッドシューズ”の文脈にも語られるモデルですが、ジョブズの足元では「無駄を削ぎ落とした仕事服」の一部として機能していたのが面白いところです。
彼はすでに991の愛好家でもあり、その延長線上で992を自然に選んでいる、そこに「計算された日常」が見えます。
2020年にはオリジナルグレーが復刻され、WTAPSとの500足限定コラボなど、992は“ただの古いスニーカー”ではなく、カルチャーとして再評価される存在になりました。
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なぜ、あのグレーのスニーカーは「仕事の靴」になったのか
ニューバランスにとって、グレーは特別な色です。
ブランドは毎年、象徴カラーであるグレーを祝う「Gray Days」という企画やキャンペーンを行い、グレーこそニューバランスらしさだと打ち出してきました。
発売当時、多くのメーカーは“性能アピール=派手なカラーリング”という考え方でした。
一方ニューバランスは、
「性能は見た目の派手さではなく、中身で語ればいい」
という思想から、控えめで汚れが目立ちにくく、でも店頭で逆に浮き上がる「グレー」を選びます。
結果としてこのグレーが、「主張しすぎないのに存在感がある」「仕事にも馴染む」色として機能しはじめました。
さらに、そこにジョブズというロールモデルが重なりました。
彼は同じ服・同じ靴を“制服化”することで、「余計な選択に頭を使わない」スタイルを貫きました。
その足元がグレーのニューバランスだったことで、いつの間にか
「IT業界の正装=ラフだけど知的なスニーカー」
というイメージが広がっていった、と言われています。
「仕事用スニーカー」が広まった3つのリアルな理由

はじめてオフィスにスニーカーで行ったとき、ドキドキしませんでしたか?
「今日の足元、浮いてないかな」
「取引先きたらどうしよう」
でも、一日が終わるころにはだいたい同じ結論にたどり着きます。
あ、もう革靴に戻れない。
“仕事用スニーカー”がここまで受け入れられた理由は、とても実務的です。
・長時間履いても疲れにくい(=パフォーマンスが落ちない)
・オフィスカジュアル文化・リモートワークでドレスコードが緩和
・成功しているIT起業家・エンジニアが「スニーカーで結果を出している」という説得力
ジョブズの992、シリコンバレーで愛されたミニマルシューズたち(のちほど触れます)、それらが「スニーカー=だらしない」から「スニーカー=機能的で合理的」へと、
意味をじわじわ書き換えていったわけです。
いまIT業界で選ばれている“仕事用スニーカー”とは?

ここから「スティーブ・ジョブズとニューバランス」の文脈を土台にしながら、2020年代半ばのIT・デジタル業界で実際に注目されているシューズ像を重ねていきます。
1. “ニューバランス的”バランス感のモデル
まず外せないのは、ジョブズの系譜にあるニューバランスのグレー系モデル。
・99Xシリーズ(990/991/992/993など)
・574などのクラシックライン
これらは、派手すぎず・スポーツしすぎず・でも履き心地は本気、という立ち位置で「オフィス対応スニーカー」の代表格として挙げられることが多いです。実際、各種ワークスニーカー特集でも、ニュートラルカラーのNBは“仕事と休日をまたぐ一足”として推されています。
ポイントは「グレー」「ローカット」「適度なボリューム」。
ジョブズのイメージと地続きの “考える人のための靴” として、今も評価されています。
2. ミニマル・ホワイト/ニュートラルな「ノンスポーツ顔」スニーカー
IT業界のオフィスでよく見かけるのが、
・ロゴ控えめ
・オールホワイト、オフホワイト、ベージュ、ネイビーなど
・細身〜標準シルエット
のモデル。
「いかにも運動靴」ではなく、“革靴より柔らかいビジネスシューズ”のように見えるスニーカーが選ばれています。
定番クラシック系(例:落ち着いたスタンスミス系デザインなど)
シンプルなレザースニーカー
ジャケットにもスラックスにも合うプレーントゥライクなデザイン
共通しているのは、清潔感>インパクトという価値観。
ミーティングにそのまま行けて、画面越しでも悪目立ちしない足元が好まれています。
3. 「歩ける革靴」的なハイブリッド・レザースニーカー
もう一つのトレンドは、アッパーはドレス寄り(レザー・スエード)、中身はスニーカー構造というハイブリッド。
・クッションミッドソール+ラバーアウトソール
・見た目はローファー/プレーントゥ風
・スーツ〜ビジネスカジュアルまで対応
これらは、保守的な業界や対面営業の多いIT職(SaaS営業、コンサル寄り職種など)で重宝され、「革靴のフリをしたスニーカー」として市民権を得ています。
ジョブズのような完全カジュアルではなくても、「快適さを手放さない」という思想は同じです。
4. サステナブル&テック志向のスニーカー
IT業界、とくにスタートアップやプロダクト志向の企業で象徴的なのが、思想込みで選ばれるスニーカー。
代表例として挙げられるブランドには、環境配慮素材やミニマルデザインで知られ、シリコンバレーのエンジニア層に広く浸透したモデルもあります。
・ロゴ控えめ
・ウールや再生素材などを使用
・「派手に目立たないけれど、自分たちのスタンスは示したい」という層に刺さる
ここでもやはり、ジョブズ的な「余計な装飾はいらない」「機能と思想で選ぶ」という文脈が生きています。
5. ハンズフリー・厚底クッションなど“生活導線まで含めてラク”
最近はさらに、
・脱ぎ履きしやすいハンズフリー系
・長時間PC作業+移動を支える厚めクッション
・通気性・軽量性重視のニットアッパー
など、「ライフスタイル全体をチューニングしてくれる靴」も、ITワーカーの足元に増えています。
ここまで来ると、スニーカーは完全に「仕事の効率を上げるギア」
として選ばれていて、ジョブズが992を制服化した発想と真っ直ぐにつながっていきます。
実は、私たちWEARING ONブランドもこの「生活導線まで含めてラク」という発想から、ハンズフリータイプのシューズを開発しています。いわゆる“スリッパ的な手軽さ”ではなく、オフィスにも馴染むシルエットと、きちんとしたホールド感を両立させたモデルです。朝バタバタしながら家を出るときや、オフィスと自宅を行き来するリモートワーカーの日常に、そのままスッと組み込めるような一足。カラーは、清潔感があり、オフィスにも馴染むグレーやベージュで展開します。
派手に主張はしないけれど、「あ、これでいいじゃん」と思ってもらえることを目指しています。
“考える人の制服”としてのスニーカー

ニューバランス992のストーリーは、
・記念モデルとして生まれ
・グレーという控えめな色を選び
・スティーブ・ジョブズという象徴的人物に選ばれ
・そしてIT業界の「新しい正装」のイメージをつくった
という一本の線で語ることができます。
今のIT業界で選ばれているシューズたち――
グレーのクラシック、ミニマルなレザースニーカー、サステナブルブランド、ハイブリッドモデル、ハンズフリー――それぞれの背景には、
「無駄に疲れたくない」「でも知性と誠実さはにじませたい」
という、ごくまっとうな願いがあります。
足元はラフなのに、仕事は本気。
そのバランスを象徴するアイコンとして、ジョブズのニューバランス992の物語は、これからも“仕事用スニーカー”の基準であり続けるはずです。

